月イチコラム「空想の森映画祭」

「空想の森映画祭」 004

9月14・15日の2日間、空想の森映画祭(新得町新内)で営業してきました。 
もう13回目の映画祭ですが、10年位前に映画を見に行った覚えがあります。
廃校になった校舎の前にはネパール雑貨やタイ雑貨のお店、燻製屋さん、手打ちそばをはじめいろんな食べ物があって、それはそれは大にぎわいでした。

数年前に久々に行ってみると「お腹が空いたけど食べ物屋さんが無いなあ」という印象でした。それでも年に一度は気になる映画を見るために片道40~50分かけて行っていました。

新内(にいない)小学校は昭和48年度を最後に閉校しました。でも当時のままの空気が校舎に残っています。教室には黒板や時計、級友たちの習字も貼ってあります。童話集や教材用の大きなそろばん、木箱に入った顕微鏡もあります。廊下は板張りで、歩くとギシギシと鳴ります。映画や映画祭も好きでしたが、何よりもこの校舎にもっと長く滞在していたいと思っていました。

そんな憧れの場所でしたが、ご縁があり、フローモーションとして2年連続で参加させてもらっています。ひと月前になると私はそわそわし始め、メモ帳にメニューや必要な器具類を書き出しておきます。前日の営業が終わったら、必要物品をそろえて段ボール箱に詰めます。当日の朝、食材や調理器具を車に積み込み出発。途中で買い物などをして昼ごろに到着します。

学校の屋根伝いに張り出されたテントの下が店の場所です。
力強い筆字で「空想の森映画祭」と書かれたカッコいい旗がいくつか立っています。フローモーションの看板が無いので、ここでも近づいてみないとフローモーションであるということは分かりません。

お天気に左右されながら、風に吹かれ、虫とたわむれ、炭火におちょくられつつ、コーヒーやチャイ、ベーグルサンドを販売します。
映画を見たり、校庭の柏の木の周りで談笑したり、時間は確実に過ぎてゆきますが、なんだかゆったりと、のんびりと流れてゆきます。
夜は校舎内のどこかで寝袋に包まって寝ます。「どこか」とはホールの真ん中だったり、物置き場だったり、カフェスペースの床だったりします。ある意味サバイバルです。ですから、この行事は「FLOWMOTIONキャンプ」と呼んでいます。鳥の鳴き声と、川のせせらぎ、時々耳の近くを飛び去る虫の羽音の中で、2日間を過ごしてきました。

もちろん映画も見てきました。「空想の森」という映画祭の名前がそのままタイトルになったドキュメンタリー映画です。新得を舞台に無農薬で有機野菜を作って暮らす夫婦や、共同生活をしながら野菜作りや酪農をしている人々の日々の記録です。若い夫婦が新しい小さな命と共に将来について悩み、決断するというドラマもあります。
その映画の中にも豊かな森や、やわらかな日差しや、風の音がありました。そして、そこで生活を営む人々がいました。便利な暮らしの中で忘れていた、いろんな風景がありました。なぜか泣けてきました。
心に残った映画のひとつになったことは確かです。今までも、空想の森映画祭で見た映画には静かな感動があったなあと思います。

たぶん来年も行きますよ。そしてまた、素敵な映画と、大きな自然と、楽しい人々に出会えると確信しています。
幸せな時間を過ごしに、あなたも行きませんか?来年ですけど・・・。

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2008年9月
FLOWMOTIONカフェ担当  つかこしちひろ

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ドキュメンタリー映画『空想の森』農あるくらし。~重ねた時間と陽の匂い~
監督・撮影・編集/田代陽子   2008年/日本/カラー/ビデオ/129分

空想の森映画祭