月イチコラム「一人旅のススメ」

「一人旅のススメ」006

旅行は良いものです。
こんなに小さな日本なのに、一歩北海道を出ると、いや、十勝を出ると見慣れない風景や建物に出会います。おいしい(もしくはおいしくない)その土地ならではの食べ物もあります。そして、その土地に暮らしている人々がいます。
見るもの 聞くもの 嗅ぐもの 全てが新鮮です。

私の初めての一人旅は思いもよらないことから始まりました。
当時、京都に友人が住んでいました。その友人に会えば何とかなるだろうと思っていましたが、京都駅が改装工事中で待ち合わせ場所の『烏丸口(からすまぐち)』がどこなのか分からなかったのです。ケータイも無い当時は『烏丸口』らしき場所でジッと待つしかありませんでした。

すると
「ネーちゃん、どうしたんや?」
とちょっとガラの悪そうなおじさんが、おかきをボリボリ食べながら寄って来ました。

私:「友人と待ち合わせを・・・」
おっちゃん:「そうなんかー。工事中で分かりにくいもんなー」ボリボリ
      「おっちゃんがその人探して来たるから、ネーちゃんそこで待ってな」ボリボリ
      「あ、そうそう。どんな人やねん?」

分かるわけもないだろうと思いつつ、なんとなく伝えて期待もせず待っていると5分ほどでおじさんが戻ってきました。

お:「ようわからんかったわー」ボリボリ「すまんなー」
私:「いえ、いいんです」
お:「ほいなら、おっちゃんは帰るわー。実は大阪行こうとしたら、どういうわけか京都に着いたんやー。あ、これやるからな。食べて待ってるといいわー」

と、食べかけのおかきの袋を渡されました。
仕方ないので、おかきと共に不慣れな街を一人、トボトボと歩いてゆきました。
友人とは夜になってやっと連絡が取れ、翌日に会うことが出来ました。

友人:「あほやなー。変なオヤジについて行ったらあかんぞ!売られてまうからな!」
(?・・・きみ、新潟生まれの北海道育ち、京都へ来て1年半くらいなのに関西弁?)
私 :「そんなこと言ったって工事中で『烏丸口』がわからなかったんだもん。しょうがないしょやー!あのおじさん、おかきくれたよ・・・」

といったハプニングを乗り越えた私は、事前にリサーチした永観堂の「みかえり阿弥陀如来像」を見ることや、今宮神社の「あぶり餅」を食べることに成功し、自信をつけてゆきました。このときは、行きたい所へきちんとたどり着けるのかという心配があり、それを攻略できたことに喜びを感じていました。でも、あれから10年以上が経ち、思い出すことはあの「おっちゃん」を含めた京都旅行であり、初めて生で聞いたホンモノの関西弁のことなのです。

珍しい風景や建物はもちろんですが、その土地に住んで文化を育んでいる人々がいることに感動したりします。 列車やバスの車窓を流れてゆく風景の中に、必ず「人の営みがある」ということに改めて気づき、人ってすごいなあと思ったりします。
一人で旅行をすると、なんだか寂しくなって誰かと話をしたくなります。すばらしい風景に出会えたときに「わあ!」と声に出したくなります。私は人見知りのほうなので、売店のおばさんや宿のおじさんにしか話しかけられません。でも、本当は「わあ!」と思った時に、近くにいる知らない人と感動を分かち合っても良かったなあと今は思います。

一人旅は人との出会いの旅です。もし、旅先で感動したら、誰かと話したくなったら、
むやみやたらに周りの人に声をかけてみて下さい。

その後の保障はいたしませんが。

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2008年11月
FLOWMOTIONカフェ担当  つかこしちひろ