月イチコラム「縁起物」

「縁起物 」 008

新年明けましておめでとうございます。
本年も皆様にとって良い年になりますように・・・。

新年は縁起物であふれます。門松、破魔矢、鏡餅、などなど。
フローモーションにも縁起物があります。

「熊手」です。 

でもそれは熊手の形をしていません。
さてどこにあるでしょうか。探してみてください。

実はこの熊手、昨年11月29日、東京浅草の酉の市で手に入れたものです。
熊手は潮干狩りで砂の中から貝などを掘り出すときや、落ち葉をかき集めるときに使う道具です。「福」をかき集めるということから、その熊手に大判・小判や鯛などを飾りつけ、翌年の開運招福や商売繁盛を祈願します。酉の市は11月の酉の日(昨年は11月5・17・29日)、浅草の鷲(おおとり)神社と長國寺の境内でたくさんの出店がたくさんの熊手をあふれんばかりに並べて売る一大イベントです。

たまたま、11月28~30日の日程で横浜トリエンナーレツアーへ行っておりました。 中華街を観光し、さらに浅草観光もしていました。

たまたま入ったおかき屋さんで酉の市のことを店主に聞くと「夜中までやっているよ。今年最後の酉の市だから賑わっているよ」と言うのです。
言われた方向へ歩いてゆくと、向こうから大きな熊手を抱えた人がやって来ます。しかし、私たちを追い越すように、やはり大きな熊手を抱えた人が向かってゆきます。
だんだんと人が多くなり、わき道から大通りへと人が集まってきて大きな流れになっていきます。なにやら向こうから続く長い列の「最後尾」という看板のところに来ました。

何がなにやら分かりません。何のための列なのか、熊手はどこで買えるのか・・・。
人の流れを整備している警備員さんに聞くと、右の方向へ行くと買えると言います。
向かうと人ごみから離れ、お祭り気分な露店が並び、食べ歩く人々が行きかう道に来ました。どこへ行っても熊手はありません。

住宅街の小さな公園の隅に、白いテントがありました。 迷子センター?地元の消防団のようなはっぴを着たおじさん・・・いや、おじいさんたちがいます。
熊手を買いたいのだと話すと一人のおじさんがついておいでと言います。歩く早さが尋常ではありません。人ごみをすいすいと抜けてゆきます。私は必死についてゆきます。鞄や足がたくさんの人にぶつかります。いちいち謝っていられない速さでおじさんは進んでゆきます。

小さな鳥居の前に来ました。神社の入り口のようです。その門前で「ここは出口でーす。入り口は正門でーす」と警備員さんが叫んでいます。おじさんはその人に向かって帽子をちょっと上げて「よっ、ごくろうさん」と言います。警備員さんは「あ、ご苦労様です」と言っておじさんをすんなり通します。「君たちおいで」とおじさんに呼ばれて出口から入ってしまいました。

・・・不思議の国への入り口でした。

正門から並んだ人々がまだそこでも列を作っていました。その周りにも大勢の人がいます。おじさんについてさらに人ごみを進むと参道の両側にやたらと屋根の高いテントが並んでいます。その屋根までぎっしりと並んだ大小さまざまな熊手がキラキラと黄金色に輝いています。小判やお面や稲穂や花などきらびやかな縁起物がたくさんくっついているのです。はっぴを着てはちまきをした男衆が威勢よく熊手を売っています。
「よーっ!」パパパン、パパパン、パパパン、パン! 三本締めが聞こえてきました。大きな熊手は何万円、いや何十万円もするそうです。それが売れたときに三本締めをするのです。あまりの人ごみで誰がどんなものを買ったのか、まったく見えません。行きかう人々は洋服を着ているのに、そこは「江戸」でした。

おじさんがある一つの店の前で足を止めました。
「よお!この子たちね、北海道の親戚なんだ」 「へえー。北海道ぉ?」 
(ウソがばれてるよぉ・・・)せっかくなので熊手を買おうと思いました。

が、私の手と同じくらいの大きさで1つ7千円!!

「北海道から来たんだよー」おじさんが値引き交渉。
でも、5千円・・・。そんなに高いの?買えない・・・。

もっとちっさいのでいいんです。
あ、この熊手の形をしていない置物。これは?3千円!?
ううっ。 えっ?安くしてくれるの?ありがとう、買えそうな気がします。

ってんで買ったものがフローモーションにある熊手(?)です。

せっかくなので記念撮影をして、神社から出る方向を教えてもらい、おじさんとは別れました。普通の通りに出てからも興奮はおさまりませんでした。しばらく歩いて、少し気持ちが落ち着き、周りを見てみるとまだ神社へ向かって歩く人がたくさんいます。
たぶん本当に夜中まで、日付が変わるまで、あのお祭り騒ぎが繰り広げられるのでしょう。それにしても、江戸の賑わいと活気を感じた日でした。

翌日は浅草寺観光をしました。仲見世で熊手が700円で売っているではありませんか。しかし、私たちは情報が乏しかったにもかかわらず、さまざまな偶然と出会いで酉の市へ行き、人ごみをかき分け、あの興奮の中で熊手の置物を買ったのだ。縁起が良くないわけはない。

私と行動を共にし、共に江戸を味わった彼女は本州へ引っ越してしまいました。
でも、この出来事はたぶんお互いに一生忘れられない思い出になるでしょう。
私の宝になりました。
皆様にも、良い出会いと素敵な宝がたくさんやってきますように・・・。

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2009年1月
FLOWMOTIONカフェ担当  つかこしちひろ